2017年10月18日

本当は秘密にしておきたいけど、やっぱり読んで欲しい人間社会学科教員のオススメ本 第15回

本当は秘密にしておきたいけど、やっぱり読んで欲しい人間社会学科教員のオススメ本 第15回
書 名:模倣の社会学(丸善ライブラリー)
著 者:横山 滋
紹介者:観光地域デザインメジャー 毛利康秀

「今回オススメするのは『模倣の社会学』という本だ。」
「それは、どのような本なのですか?」
「ガブリエル・タルドという、フランスの社会学者が主張した模倣説を紹介した本だよ。」
「しゃ、社会学者・・・もう読む気が失せてもうたわ!」
「社会学者というと難しそうだけど、この本はタルドの学説を分かりやすく解説しているので読みやすいよ。」
「模倣説とは、どのような学説なのですか?」
「一言でいえば『社会は模倣で出来ている』ということかな。」
「も、模倣・・・マネのことだよね。『社会はマネで出来てる』なんて言い切ってええんか?」
「本質をシンプルな言葉で喝破することは珍しくないよ。他の学問分野でも、例えば、物理学では『光の速度は変わらない』という原理で世界を説明している。」
「アインシュタインの特殊相対性理論ですよね。光の速度が変わらないから、時間や空間の方がねじ曲がってしまうって教わったことがあるわ。」
「何それこわい。」
「経済学では『全てのものは商品だ』という考え方で世の中を説明していたりする。」
「マルクス経済学での資本主義社会の説明ですよね。人間の労働力も商品になってしまうと教わったことがあるわ。」
「何それオレも商品ってことなん?」
「マルクスに言わせると、そういうことになるね。要するに、マルクスが『商品』というキーワードで世の中を説明したように、タルドは『模倣』というキーワードで世の中を説明しようとしたんだ。」
「もう少し詳しく知りたいわ。」
「タルドに言わせると、『社会とは模倣である』ということになる。『社会集団とは相互に模倣しあっている人々の集団』とも言っている。具体的な模倣だけではなく抽象的な模倣もある。意識的な模倣だけではなく無意識の模倣もある。反対模倣だって模倣だ。慣習に従うことも、流行に乗ることも、スマートフォンを活用することだって、みんな模倣で説明出来る。社会そのものが模倣に満ちているという、大胆な主張だね。」
「えぇーっ!世の中すべて模倣だなんてあり得んわ!じゃあオリジナルはナッシングってことになるやんけ!」
「もちろん、タルドは『発明』という概念も提示しているよ。その意味では、世の中は『発明と模倣で出来ている』ということになるね。しかし、新しい『発明』と呼ばれるものだって、既に存在しているものを組み合わせただけ、つまりオリジナルの中にもどこか『模倣』の要素が入っていることがほとんどだから、結局、世の中はおおよそ『模倣』の産物であるという帰結になっている。」
「本当かよー。」
「でも、私たちが話す言葉だって模倣といえば模倣だし、新しい小説だって既にある言葉の組み合わせに過ぎないから、タルドさんの言いたいことは分かるような気がするわ。」
「その通り。『創造』と『模倣』は対立するもののように見えるけれども、『創造は模倣から生まれる』という側面もあるんだ。作家だって、画家だって、何かお手本になるものが先にあって、見よう見まねで作るところから始まるしね。」
「そういえば、私も小学生の時にピアノを習ってて、ちょっと作曲してみたことがあったわ。」
「作曲もそうだね。既に別の曲を知っているから出来ることだよね。」
「今度その曲聴かせてよ!」
「タルドの模倣説は今から100年以上前に書かれたものだけど、最近は世界的に再評価が進んでいるよ。インターネットが普及してコピーも拡散も容易になった現代だからこそ、あらためて検討してみたいテーマであると言える。」
「タルドすげー。」
「ちょっと読みたくなってきたわ。」
「まずはこの本を読んでみて、興味が深まったら、タルドに関する別の専門書にあたってみると良いよ。」
「オレもタルドを読んダルド。」
「寒い…とてつもなく寒いわ。」


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Posted by 静岡英和学院大学  at 12:50 │読書



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