2017年01月04日

本当は秘密にしておきたいけど、やっぱり読んで欲しい人間社会学科教員のオススメ本 第13回

書名:方法序説
著者:ルネ・デカルト(訳者:谷川多佳子)
発行所:岩波書店
紹介者:人間社会学科心理メジャー 日比優子

 著者であるデカルトは、私が本学で担当する授業「心理学基礎」の心理学史の回で、必ず紹介する哲学者です。「われ思う、ゆえにわれあり」という彼の言葉を、高校までの授業で学んだ時の印象を学生に聞くと、「難しそう」という感想が多く聞かれます。全6部から構成される『方法序説』の中で、この言葉を取り上げている箇所は第4部のみです。それ以外の箇所は何が書かれているのでしょうか。この本は100頁ほどの短いものです。本を読み慣れた人であれば小一時間で読める分量ですが、内容をすべて理解するには多くの時間を要するかもしれません。

 私がおすすめする『方法序説』の読み方は、まずは一読してみて「なるほど。」と「本当?」と思った一文をそれぞれ見つける方法です。この本には、さまざまな学問に対するデカルトの思いが書かれています。哲学はもちろん、文学、神学、法学、数学、医学、天文学、心理学(とは書かれていませんが内容は心理学)・・それに加え、彼自身が人生を歩む中で考えたことを語っています。実はこの部分が、まだ具体的にある学問に興味をもてない若い皆さんにも、十分楽しめる内容になっているのではと思います。二つほど、私の解釈を加えてご紹介します。

『わたしの第二の格率は、自分の行動においてできる限り確固として果断であり、どんなに疑わしい意見でも、一度それに決めた以上は、きわめて確実な意見であるときに劣らず、一貫して従うことだった。』
 何かに迷った時、とりあえずどこかへ真っ直ぐ進み続ければ、何らかの結論にたどり着くでしょう。着いた場所が、結果的に行きたかった所ではなかったとしても、ずっと迷い続けるよりはましでしょう。

『わたしの第三の格率は、運命よりむしろ自分に打ち克つように、世界の秩序よりも自分の欲望を変えるように、つねに努めることだった。』
 自分のいる環境に不満を言っても仕方がありません。自分で変えることが出来るのは自分だけです。それがわかっていれば、余計なことを考えずに済むかもしれません。

 私が心理学者として「なるほど。」と思った箇所は、
『その原理を哲学から借りているかぎり、これほど脆弱な基礎の上には何も堅固なものが建てられなかったはずだ、と判断した。』
であり、研究者として「本当?」と疑問をもった箇所は、
『わたしは自分がきわめて誤りを犯しやすいことを認めており、・・中略・・それでもなお、人から受ける反論についての経験からすると、そこからはどんな利益も期待できない。』
という一文です。

 デカルトが約380年前の1637年にこの本を発表した当時、哲学の論文は一般的にラテン語で書かれました。しかし、彼は、「女性たちに何かをわかっていただきたいためにフランス語で書いた」と述べています。この本は、専門の哲学書でなく一般教養書なのです。「難しそう」と食わず嫌いせず一度手に取り、デカルトの意見に「なるほど。」だけでなく、「本当?」と疑問をもって欲しいと思います。そして大学入学後、本格的にある学問に興味をもったら、再び読み返してみてください。


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Posted by 静岡英和学院大学  at 10:17 │読書



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